翔太のわんこ
ちいチャンのオオママは良くいろんなお話をしてくれる。 
今からざっと40年も前の、寒い雪の日その物語は突然オオママの中にとびこんできた。
オオママは自治会の副会長をしていて、毎日自分の仕事と奉仕活動の自治会の仕事を一生懸命にこなしていた。
その日は、県の教育委員会にアンケートの仕事があって出かけていたが、ようやく仕事が終わって横浜から相模原へ帰ってきたところだった。オオママの家の近 くに来ると、自治会館の前に何重もの人盛りがしていた。それはとても多くの人だったし、なんだか煙があたりに充満していたのだった。
役員をしているオオママは顔から血の気がぐんぐん退くのがわかった。
「大変だ!私がいないときに火事になるなんて!」
人垣を分けて入っていくと、足下にグニャグニャに曲がった幾本もの白い消火用のホースが目に飛び込んだ。
もう火事は火の勢いも無くなって、風に吹かれて煙はどんどん飛んでいってやがてあたりは夕闇に包まれるころであった。
区長の川崎さんが、よほど心細い思いをしていたのか、オオマ マを見つけて急いでやって来た。
「どうしたんですか?自治会館がもえたんですか?」
「あ、副会長さん、自治会の裏の家が燃えたんです。」
自治会館より20メートルも離れている赤坂さんの家が1時間前より燃え始 めて、今鎮火したと言うことがわかった。
「それで、けが人は、いないでしょうね」
オオママは持ち前の機敏さですぐに消防士の所にかけつけた。
消防士はオオママが良く自治会の仕事でお世話になっている人だったので
「いや、ひとり、わからんのです」といった。
もう燃えた家は真っ黒になって、手前から、あらかた奥の壁の向こうまで透けて見えるような燃えかすになっていた。
「分からんっていったって、どういうことですか?」
区長の川崎さんが
「たしか、子供さんが3人いたような・・」
といった。
「やっぱり3人ですか、ちきしょう!今一人の行方がわからん」
消防士は寒さで震えながら、絞り出すようにいった。
「子供は3人だそうです。2人は、隣の飯島さん宅であずかってもらっています。」
レシーバーで、そんなやりとりをしていた。
相手の声は、レシーバーを通してピーピーガガガという音に混じって
「後一人はどうした」といった。
「今探しています。逃げていると思うんですが」
焼け跡を2人の消防士があるいている。
オオママが夕闇をすかしてみるととても誰かがそこに倒れているような状態ではなかった。
オオママはとっても悲しくなって、のんびりと探しているように見えた消防士を追って火事の現場に飛び込んだのだった。
さんざんもえたんでしょう。
その家は既に消防水でたっぷりつかっていて、オオママの足はまるで田んぼの中に飲み込まれるようにずぶずぶとはまってしまった。そう言えば、オオママは横 浜に出かけてその帰りだから、一応いっちょうらを着こんでいたし、靴もかったばかりのハイヒールだったんだけど、そんなことは瞬間全く考えてはいなかっ た。
膝までつかりながら、とても何かを「何かってなにかだ」見つけるような状態ではなかった。
子供の死体がそこにあるなんて、絶対認めたくないオオママは、「何も無いことを証明したかったんだ」
「副会長さん、とても此の状態では見つかりませんよ。後、明日みますから」
消防士がいったが、
オオママは、もしかしたらよけいなお世話かと思いながらも
「いいえ、今すぐ頼みます」といった。
確かに、情熱だけでは火事場をいかようにも探索することはままならないと思ったが、子供が居ないと言うことはオオママの心をぐさぐさにしていた。
消防士は「ところで、ココのご主人はまだですか?」といった。
区長の川崎さんは
「ココには、奥さんと3人の子供の4人家族が住んでいるんです。」といった。
「奥さんはどこですか?」
「未だ帰ってきていません。出かけたばかりで、帰ってくるのはいつも11時すぎです」
「どこにつとめているんですか?」
「ああ、ぜんぜんわかりません。」
川崎さんは悲鳴の様な声をだした。
オオママは、なんてことだと思った。
もしかしたら子供が死んでいるかもしれないのに、この子の母親は未だそれさえ気が付かないで働いているんだ。

そのころ翔太のママは1月前から勤めている町田のバーにいた。
店から支給された赤い洋服はちょっと翔太のママには大きかった。でも今は生きるために働いているのだ。
働かないと、本当にご飯が食べられないのだ。
子供が3人いて、それも小学校2年生を先頭に保育園の真、一番ちいさい彰は未だおむつも取れてはいない。
店長は、大丈夫生きていけるようにお給料は払うから・・と、言ってくれたので翔太のママはがんばっている。
時々全く思考できない自分がそこにある。ぽわーんとしていて背中でもたたいて貰わないと目が覚めない。
目玉をひんむいて、前を見ているのに、すぐ気分が鬱情になって心は砕けてしまいそうだ。
地団駄踏んでも此の人生はこうなるべくしてなっているんだ。だから明日の為に働かなくてはならない。
翔太が2人の弟の面倒を良く見てくれているから、それでも働ける。・・・そう思うようにしている。
小学2年生の子供に過剰な期待をかけているけれど、そうしないと働くことも出来ない。
翔太のパパは、もう半年も翔太達を見ていない。
2ヶ月前にママと離婚し、誰かの所にいった。
勿論、養育費も払ってくれる筈・・・・・だったのに、翔太のママが実際手にしたお金は何にもなかった。
実家の母が毎月なにがしかのお金を持ってきてくれているんだが3人を養うにはどうしても足らないとママは思っていた。